Road to ばあちゃんち

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 先月は僕の誕生日で、バースデープレゼント代わりに「そこ座りなさい」状態で「祖母宅でのバイトか一切の援助無しで家を追い出されるか」という究極の二択を厳然と突きつけられた。  うちの親は二人とも優秀で、チビの頃からヘタレで挫折しがちな僕が歯痒かったろうに、まるで金八とマザーテレサかってくらい今まで温かく見守ってくれていた。だから、三十代になるまでは現状維持で甘えさせてくれるもんだと勝手に思っていた。僕まだ二十代なんだしいいじゃん?と聞き返したら「鉄は暑いうちに打て」って言い返されたさ。こうと決めたらそこらの親より厳しい人達だってのも僕は知っていた。  正直どちらも嫌だったが、強いて言えば祖母宅の住み込みバイトの方がいくぶんマシなような気がした。僕を放り出した親の思惑通りの展開なのが癪だが、いくら便のいい都内でも一からアパート借りたり仕事探したりするのはとてつもないエネルギーが要る。それよりは子どもの頃のいい記憶だけが残っている山奥のばあちゃん家の方が気楽に思えた。何だかんだ言って僕はばあちゃん子だし。  高校や大学の同期の子達の大半は、とっくの昔に就職してそれなりの立ち位置になっている。結婚して家庭を持ってる奴もいる。そんな俯瞰図をSNSの片隅で無言で眺めていた。勝ち組テンプレ安定路線のレールに乗ることばかりが正解ではないだろうが、薄々「このままじゃダメだ」とも思っていた。一度、シェルター役をしてくれていた両親から離れてみるのもいいかもしれない。  次の日、身の回りの荷物だけ持って山奥の駅に降り立った僕をばあちゃんはスーパーヒーローか救世主でも迎えるかのように歓待してくれた。  数年ぶりの村は記憶よりずっと古臭く劣化しているだろう、と思っていたら観光地化のせいか駅舎なんかいい感じに時代がついて心なしか垢抜けたように思える。
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