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「で、何の用ですか」
彼女の後ろ姿を含め、室内をザッと見渡す。一人で過ごすには広めの個室は、リビング仕様に設えられている。部屋の中程に革張りのソファーがあり、腰を下ろした彼女は長い足を組む。
競泳選手のように身体にフィットした、光沢のある黒いウェアが胸から膝上までを包んでいる。両腕が肩から露になり、長い四肢とスタイルの良いボディラインを強調するデザインだ。
「冷蔵庫の中の箱を持って来て頂戴」
勿体ぶって人を使う。言われた通りに、据え置きの冷蔵庫を開けると、片手には余る巨大な箱がある。
抱えて彼女のソファー前のテーブルに運んだ。
「開けて、ジョージ」
キャサリンはニコニコと機嫌良く俺を――俺の反応を伺っている。
「――な」
何ですか、と聞き掛けて正体に気付く。
小箱一杯にライチが詰まっている。
「出張のお土産よ」
「――俺に、ですか?」
「もちろん。好きなんでしょ、ジョージ」
「はぁ……」
確かに、果物の中では好みだが、大好物という程ではない。第一、こんな大量に食うものでもないだろう。
「あら、不満顔ね。足りなかった?」
「いえいえいえ! 驚いただけで……ありがとうございます」
全力で否定する。彼女のことだ、「足りない」なんて思われたら、どれだけ大量に寄越すか分からない。
「そう? まぁ、それはオマケみたいなものなんだけど……はい、ジョージ」
いつの間にか、彼女はソファーの陰から茶色の紙袋を取り出し、俺に渡してきた。ちょうど小ぶりのバケットが入っているくらいの、縦に細長い袋だ。受け取ると、ズシリと予想外に重量がある。少なくともバケットではなさそうだ。
「――何ですか、これ……?」
「幸運の女神よ」
極彩色に塗られた面長の彫像。大きな細長い瞳を伏せて、微笑みを湛えた穏やかな面持ち。たっぷりとドレープが効いた特徴的な衣装を身に纏い、細い腕は多くの装飾品で彩られている。木彫りに見えるが、それにしては重い。まさか、中に何か仕込まれているのではないだろうか。
「……何も仕込んでないわよ」
心――いや、俺の表情を読んだのか、キャサリンが憤慨気味に付け加えた。
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