38人が本棚に入れています
本棚に追加
スマホが呼んでいる。
上着の胸ポケットから取り出すと、メールのアイコンが点滅している。
送信元を振り分けているから、誰からなのか瞬時に分かる――ボスだ。
時計を確認すると、まだ早朝、五時五分。
『朝早くにすまんな、譲治。出社前に、添付の地図の場所に寄ったってな。頼むで』
クリップマークを開くと、確かに地図の画像がある。某高級ホテルに赤い星の印が付いている。
返信を送ろうとした瞬間、再び着信音が鳴った。
『2508』というタイトルでボスから届いている。
『追伸や』
本文を開くと、短い一文だけがある。部屋番号という意味だろう。
『了解です』
こちらからも短信を返して、スマホを置く。それにしても、ボスはこんな早朝に目が覚めているのか。
今更寝直す時間でもあるまい。手早くベッドの乱れを整え、寝室を出る。
キッチンでミネラルウォーターを一杯流し込み、一息付いた。カウンターを回って、リビングのローテーブルの上のリモコンを操作する。
『おはようございます! 今朝のお目覚めは、いかがですかー?』
壁に据えられた32インチのワイドテレビが即座に反応する。
見慣れた女性キャスターの元気な笑顔が画面に広がった。彼女は白いブラウスの上に赤いカーディガンを着ている。クリスマスには早いが、まるでサンタのような衣装だ。
元の位置にリモコンを戻し、リビングの反対側に向かう。
『まずは、今日のお天気です。気象予報士のみすずさーん?』
『はーい、おはようございます! 気象予報士のみすずでーす』
最近知ったことだが、「みすず」というのは名字らしい。やたらと馴れ馴れしいやり取りだと思ったが、紛らわしい。
『今朝は寒さも緩み、日中も穏やかな日差しの一日となるでしょう。では、各地の詳しいお天気です』
聞き慣れた気象予報士の声をBGMに、日課の腕立て伏せを始める。
『それでは、今朝、これまでに入ってきたニュースです』
ニュースを聞きながら、腕立て伏せに続いて、上体起こし、スクワットを順番にこなす。それからルームランナーで10km走って、一息付いた。
夏ならここでカーテンを開けるのだが、今の季節の日の出は遅い。一旦、ストレッチを挟んで、パンチングボールを殴る。
最初のコメントを投稿しよう!