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スマホを上着に入れ、部屋と車の鍵を掴む。
六時か――まだ日の出前だが、リビングのカーテンを開けて、部屋を出た。
マンションの八階から、エレベーターで地下駐車場まで降りる。時々顔を合わせる五階のサラリーマンがいるが、今日は乗り込まない。俺が早出のためだろう。
愛車のハンドルを握り、マンションを後にした。
環状線に合流する交差点の手前に、コーヒーショップのドライブスルーがある。「本日のコーヒー」のMサイズを買って、環状線に乗る。東の空が明るくなってきた。熱いコーヒーを飲みながら走る、この時間が心地よい。
目的地の高級ホテルは、何度か訪れたことがある。
新しいミッションだろうか。先にトラブルを起こした金満興業の一件は恙無く後処理を済ませ、既にボスに報告済みだ。今抱えている他の事業で面倒でも起こったか――。
高速ビル群の外壁を輝かせながら朝日が昇り切った頃、目的地に到着した。
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チェックアウトと朝食のために移動する宿泊客に紛れ、追伸にあった部屋――2508に向かう。
――ピンポーン
ドア脇のチャイムを押す。一応警戒は怠らず、いつでもガバメントを抜けるよう、右手を上着の内に差し込んでおく。
「はぁい、早かったわね」
聞き覚えのある声に、ガバメントから手を離し、違う意味で警戒する。
「おはよう、ジョージ!」
華やかな南国の太陽――ブロンドヘアを輝かせて、キャサリンが満面の笑顔で俺を迎え入れる。
「……おはようございます、キャサリンさん」
「相変わらず硬いわね。ボスはいないわよ?」
彼女の微笑みに、なおのこと警戒レベルが引き上がる。彼女が苦手な訳ではないが――ある種の条件反射に違いない。これまでに数々の悪戯を仕掛けられている身としては、無理なからぬことだろう。
キャサリンは、俺と同じくボスの下で働く社員である。表向きはボスの専属秘書兼ボディーガードであり、社内では公然のボスの特別な存在でもある。
180cmはあろうかというスレンダーな体型に、目映いブロンドヘア。時に相手を射るように鋭い瞳は、真冬の湖に似たアイスブルー。白磁の如く滑らかでありながら、若く瑞々しい肌。
実際――彼女の正確な年齢を知る者はないが、恐らく俺より五歳以上、年下だろう。
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