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目が慣れるのは意外と早かった。
いまだドア付近に立っている王子の影に向かって声をかける。
「あの、王子?」
「静かに」
ぼんやりした王子の影が、私に近づいて来る。
王子も私が見えているのだろう。
「いや、でも」
「喋るな」
「うぐ」
「王子? どこにいるの?」
王子が私の顔全体を右手で覆うと同時に、教室の外で女性の声がした。
いつの間に近くまで来ていたのだろう。
彼女たちも王子にばれないように、足音を消していたのかもしれない。
「今声がしたましたわ」
「ここかしら」
途端、視聴覚室のドアがガタガタと不気味な音を立てて揺れた。
「ダメ、鍵がかかってる」
私の顔に置かれた王子の手が、さらに圧力をかけてくる。
ただでさえ高くない鼻が失われないか心配だ。
いや、鼻の高さを心配する前に、この状況をよく考えた方がいい。
外の彼女たちからすればこういうことになる。
いつも取り巻きの一員として見つめてきた王子。
王子の後を追い、逃げた部屋を見つける。
そこに突入すると、そこには王子に寄り添う謎の女が。
血祭り確定だ。
それだけは阻止せねばなるまい。私は被害者だ。
訳もわからないまま、王子に拉致されただけなのだ。
それと同時に、このまま見つからなかった場合も想定する。
今、肩が触れ合うほどの距離に、王子がいる。
男子特有の熱の高さを感じる上に、さっきぶつかった時と同じ、良い匂いが私の鼻腔をくすぐる。
顔面を潰されているこの状態も、頬を撫でられていると解釈すればなかなかのシチュエーションではないか。
状況がおいしすぎる。
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