角を曲がれば

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  王子は本気で『契約恋愛』をするつもりだ。 キャッキャウフフを期待した36秒前の私を殴ってやりたい。 「つ、付き合っている人がいるから見合いは出来ないって訴えるんですか?」 「簡単に言えばそういうことだね」 「それ、私でいいんですか?」 自慢ではないが、私は「普通人間」だ。 成績は普通科の生徒700人中350番、美人度を測るスマホアプリに50%と言われた私は、日本の高2女子の平均身長・157.6cmの保持者である。 ついでに体重も平均値だった。知りたければググればいい。 「もっと王子に釣り合う人を探した方が……私じゃ説得力に欠けませんか?」 「「説得力」は僕が作るから別にいい。それより、普通の生徒で、あまり僕に媚びない人がいいんだ。  僕は君みたいな子を探していたんだよ」 1分24秒前の妄想の中で聞いたセリフが、目の前の王子の口から飛び出してきた。 シチュエーションは大幅に異なるが、その言葉は間違いなく私のやる気スイッチだった。 この顔を毎日拝めるのかと思えば。 演技と言えど、この顔と恋愛が出来るのかと思えば。 答えなんて1つではないか。 「分かりました。私、やります。『契約恋愛』」 「……決まりだね。ちゃんとお礼はするから」 王子は一歩下がった。ずっと触れっ放しだった手を離すと、その手を私の胸の前で止めた。 「「優特進科」2年、大和田総司。あなたの決断に感謝します」 差し出された右手。 これを握れば、ここから『契約恋愛』が始まる。 王子同様、一歩下がる。 右腕を動かす。 王子の指に、私の指先が触れる。 私が握るより先に、王子の握力を感じた。 「……「普通科」の2年生の、馬場晶です。フツツカモノですがよろしくお願いします」  
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