角を曲がれば

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  タマ高の王子・大和田総司とぶつかった。 目の前の事態が信じられず、私は慌てて新聞を拾い上げた。 2次元と3次元を交互に見比べて、やはり本人だと確信する。 「うっそ。大和田総司、モノホン?」 これはどういうことだろう。 彼は「優特進科」の所属で、全ての授業をE棟で受けるはず。 何か用事があるにしても、予鈴が鳴った今、A・B棟付近にいるのはおかしい。 それに、タマ高タイムズによればいつもハーレム状態のはずなのだが、今は護衛がいない。丸腰だ。 もしかして、あれか。 私はもうすぐ死ぬ運命にあって、それを憐れんだ神様が最期にイケメンと出会う機会をくれた、とかだろうか。 「あ、ええと、大丈夫?」 天使の囁きのような美しい声が私の思考を遮った。 大和田総司が、童話に登場する王子よろしく私に手を差し伸べている。 私はまだ尻もちをついたままだった。 王子の手を握れるなんて、またとない機会だ。 私は迷わずその手につかまる。 「あの、ありがとうございます。おー、わだくん」 「王子」と言いそうになったが、すんでの所で別の発音に切り替えた。 新聞上の2次元の王子とはほぼ毎日顔を合わせているが、3次元では初対面だ。 「王子」と呼ぶのは失礼な気がした。 私が立ち上がると王子はすぐに手を離してしまった。 普通はそうするだろうが、なんだか名残惜しい。 「怪我はない?」 「はい。大和田くんは大丈夫ですか?」 「僕も平気だよ」 相手を気遣い、ニコリと余裕で笑ってみせる。 これが王子の実力か。感心する。 「あの、どうして普通科の方に……」 「しっ」 私の質問を制止して、王子は自分が来た方角を振り返った。 先ほどまでの優雅さはどこへやら、焦燥の面持ちでどこかを睨みつけている。  
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