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何があるのだろう、と私もそちらに注意を向けてみると、
「王子!」
「王子、どこにいますの?」
数名の女性の声が風に乗ってやってきた。
「呼ばれてますよ、大和田くん」
「しーーーっ」
通常トーンの私の声に、王子は人差し指を自分の唇に当てた。
「ううん……ごめん、ちょっと来て」
なるほどどうやら彼女たちから逃げているらしい。
そう理解した直後、王子は私の手を再び握り、私が来た道を走り出した。
「え、あ、ちょ」
「早く!」
建物の隙間を戻り、中庭を抜け、王子に引っ張られるままにB棟へ入り込む。
さようなら、私のイチゴオレ。拾えなくてゴメン。
A棟は教室棟なのに対しB棟は特別室棟で、音楽室や家庭科室などがある。
私は本来B棟にある理科室に行くべきだが、王子と一緒に通った出入り口と理科室とは、てんで違う場所にある。
パールがこの状況を目撃したら、何と言うだろう。
王子と私は2階に上がってすぐの教室に身を投げ入れた。
個別ブースの机がズラリと並び、それぞれに小型のテレビが備え付けられている。
光を取り入れるはずの窓には黒いカーテンが引かれていて、部屋は暗い。
どうやら視聴覚室のようだ。
特別室なのに鍵のかけ忘れとは、セキュリティがガバガバだ。
王子はドアに鍵をかけた。
ドアには埋め込まれたガラス窓がある。
そこから見えないように、ドアに備え付けられていた厚手のカーテンも閉める。
微かな光もなくなり、視界が真っ黒になる。
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