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荷物が減って体がだいぶ楽になっても、俺は歩幅を変えず奴の少し後ろを歩いた。
きっと自分でも知らないうちに、コイツ--王様の横を奴隷が歩いてはいけないという意識が骨の髄まで染み込んでいるのだろう。
「お前、相変わらず音痴だよなぁ」
「……まぁ、親譲りだから」
今日は慶介にカラオケで勝手に俺の好きなアニメの歌を入れられ、みんなの前で歌わせられた。
おかげでひた隠しにしていたオタク趣味と音痴がばれてしまった。
「ほんとお前は何をやってもダメだよな。歌もだめ、運動もだめ、頭もだめ、顔もだめ、性格も根暗でオタク」
慶介は歌うように俺のダメなところを言い並べる。
それはそれは嬉々とした声で。
不意に、慶介が振り返った。
頭上の満月が不気味に見えるくらい、口元を嫌な笑いで歪ませ。
「お前、生きてて楽しいわけ?」
俺の心を抉ろうとするような嬉々とした悪意に満ちた声だった。
その時、異世界トリップしてぇな、と思った。
冗談抜きで本気で。
すると、その瞬間、頭上の満月が見る見るうちに赤く染まっていった。
そしてなぜか暗雲もないのに雷鳴が鳴り響いた。
これには慶介も驚き辺りを見回した。
「……サマ、オムカエニ……」
どこからか不気味な声が響き、目も開けられないほどの強い光が僕を包んだ。
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