炬燵は私を悩ませる

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 心理的要因による寒さ。  妻が熱心にテレビ番組を視聴し、私などに目もくれないことから心が冷え、それによって体も寒い――。  その考えに私は思わず頭を振った。  いやいや、それはさすがに納得できない。妻がこうしてテレビドラマを見ることは日常であるし、私も、好きなスマホゲームを炬燵で楽しもうと思っていたのだ。これが我が家の『普通』であり、お互いの心地よい時間なのだ。  まさか、深層心理では妻の興味を欲していたというのか? 妻に構ってほしいと、私はそう願っていたのか――? 「あ、寒い?」  妻の声に顔を上げると、テレビはCMを流していた。  私は笑顔を作って否定しようとした。 「ああ、いや……」 「ごめん、スイッチ切ってるから、炬燵」  衝撃が走った。 「――は?」 「入ってたら熱くなっちゃってー。スイッチ入れてもいいよー」  天真爛漫な妻の言に、私は笑顔で頷きながらスイッチに手を伸ばした。手の震えは抑えきれなかった。  私に裏側を見せていたスイッチをひっくり返すと、『入』と『切』しかない単純なスイッチは、『切』という文字を冷徹に晒していた。  ――この日、スイッチを切って炬燵に入る人間がいることを、私は初めて知った。  親指でぐっと押すと、スイッチは無情な音を立てた。  数秒待っていると、先ほどは存在しなかった熱が、私の足を温めた。
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