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ひとつの質問にひとつ返事をするとすぐ走り去ってしまうのが不可解ではあったものの、今日ここに至って納得できた。
それは全部この時の為、覚悟が固まるまでに必要な時間だったのだ。
校内のヒエラルキーだけで言えば僕なんかと話すならもっと高圧的であってもいいくらいなのに、彼女は祈るようなポーズで震えている。それだけでイタズラ目的の告白じゃないと真剣さが伝わった。
「もしよかったら私と、付き合ってください!」
その緊張を解いてあげたいと誰だって思う。彼女が望むならなんだって叶えてやりたいと僕も思う。
しかしながら、回答は決まっていた。
「それどころじゃないんだよォ!」
重ねた浅いコンテナを台車へ乗せながら言い放つと、副島さんは目を見開いて何度も瞬きした。肩口で奇麗に切り揃えられた毛先やグロスが光る唇だとか、覚悟も準備も整えて決行したのだろうけれど、こっちの心境は今の一言に尽きる。
「なぜならば両親が夫婦揃って倒れましてねェ? うちは三人家族一丸でなんとか切り盛りしてる弁当屋なんだよ。どんな事情があろうと食材の仕入れや支払いはやって来るんだ。なら僕が! ひとりで! なんとかするしかないでしょ!」
だから返事は必然――
「それどころじゃないよねェ?」
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