第1話

6/39
前へ
/245ページ
次へ
「当店からの回答は以上、次回は営業時間内でのご来店をお待ちしております! つまらない愚痴を聞いてくれてありがとうございました!」  好きな人が折角聞かせてくれた告白を最悪な形で打ち返した。  台車を押して郊外へ出る頃には、もう後悔は始まっていた。 (ああ……、なんであんなこと言っちゃったんだ……)  目が回るくらい忙しくて切羽詰まっていたのは事実だ。もし告白を受け入れていたら、きっと日常も業務も手に付かなくなる。  家業を手伝う以外は平々凡々と過ごしてきた生活に訪れた両親の入院という急降下、からの憧れの人に告白される、という乱気流。飲まれて元の軌道に戻れるはずがない。  だから断ったはずだったのに、翌朝になって何度も思い出して悔やんでは家でも学校でも所構わず転げ回りたい衝動に悶えている。そんなだから作業も同じことをしているのに昨日より時間がかかって、そのせいで今朝は遅刻してしまった。  拒絶したのに心は副島さんの虜だ。どうせ同じ結果になるのなら受け入れておけばよかった。ついそう考えてしまう。  それに、嬉しい変化のはずだった。客商売なんて何処までいっても不安が大きい家業は放り出し両親に恨まれてでも、副島さんを選んだってよかった。 (けどそんなこと、どうでもいい)     
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加