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第1話
副島依央と言えば、マジメで派手なところがなくても見かけたらつい目で追ってしまう――そういう魅力のある女子だ。モデル並のプロポーションであるとか、アイドルみたいに笑顔が眩しいというわけじゃない。それでも一度注目すれば髪が艶やかだとか、柔らかい声の響きが耳に残るとか、褒めるところはたくさん出てくる。それが個人の思い込みじゃないと証明するかのように、彼女の周りにはいつも笑顔があった。
そんなだから割と人気のある女子で、僕――大鍋梵士も彼女のことを意識していた。
「大鍋くん、あなたのことが大好きです」
ある日の放課後、学校の職員用駐車場。その彼女が僕に向かってそんなことを言う。彼女の頬を赤らめているのは梅雨が明けて強くなった日差しのせいだけじゃなさそうだった。
この告白を唐突には感じなかった。ここ何日か、ひとりきりになったタイミングで話しかけられる日が続いて、それが「趣味はなんですか?」だの「恋人はいますか?」だのと〝この先〟を期待させる質問ばかりだったからだ。嫌でも「もしかして」と空想してしまう。
「趣味は特にない」
「恋人はいない」
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