お前の一番になりたい、君のことが好きだと伝えたい。

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揺蕩う水面を、赤で色を塗る。 教室を赤で塗る。 窓に映る水面を、赤で塗る。 それだけでホラーチックに見える。 水面は、説明書を読みながらデジカメで撮った写真を加工して使ってみた。 ので、もう少ししたら絵は完成できる。 その日の、彼の小説の更新では珍しく人が死ななかった。 けれど初めて、死んだ人に涙を流す主人公の描写が書かれた。 『人は簡単に死んだら、だめだよな。やっぱ』 まるで後悔するかのような主人公の言葉は彼がこぼす様に落とした声のように思えた。 学校は夏休み前の期末テストが始まる。 いつの間にか、楽しみにしていたプールは一回に減らされ、中学最後だったのにあっけなくおわってしまっていた。 私は家では描けないので、昼休みと放課後を使ってちまちまと絵を描く。 時々それを彼が覗きに来たが、相変わらず生キズは絶えなかった。 虐待じゃないかと何度か親も呼び出されたが、本当に親子喧嘩のようでおじさんの顔も、猫に引っかかれたように傷だらけだった。 『だって俺たちはちっぽけで、自分たちの言葉の責任も親が口出しして、本当に届けたい言葉は届かないじゃないか。俺の視線に顔を上げて欲しいって、そんなに我儘なのか分からないけど、時間がないんだ。俺たちはいつも大人に時間を左右されてしまう。だから時間がない。いつまでも青空は空に映されないだろ。夜になっちゃうだろ。 時間が止まるのは、漫画の中だけ。俺は今もこうして、無駄に時間を費やしてる。 本当は俺、絵だけじゃなくてあんたも好きなんだよ。 顔を上げてよ、俺があんたを見てる。伝えたいことがあるんだ。液晶越しでもいいから』
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