一、

4/6
前へ
/52ページ
次へ
 そう言いつつ、せっせと折っていたスカートを戻し膝が隠れる程度の長さに調整している。紗矢は陸上の長距離走の全国大会三位に入賞している。から、長くて筋肉で引き締まった足を隠してしまうのは勿体ない気がした。紗矢ちゃんならつまらないルールに縛られなくていいのに。 中学三年。中学最後の夏が始まった。宿題が増えて、受験についての心構えについての授業が増えて、面接とテストが増えて、自由が無くなった。  部活も運動部の方は引退している人たちもいる。美術部の私は後輩が少ないのをいいことにまだ顔を出している。そうしないと、普通のふりが疲れて、爆発しそうになるから。  今日は新しい絵を描きたい。窓ガラスに映るプールの水面を描いてみたかった。  だから服装検査を終わらせてさっさと殻に閉じこもりたい。  柔剣道場に着くと、上靴を脱いで畳の上にクラス順の出席番号で並ぶ。  小さな町の公立だけあって二組しかないのにわざわざここに移動してこなくても良いとは思った。 「両手の平を見せて立って。髪は耳にかけて。よしと言われた人は帰っていいから」 一列に並べられた私たちは手を突き出して、先生の指示に従う。私のお母さんぐらいの年齢だろうか。いっつも不機嫌そうに口をへの形にしている国語の織田先生が私たちの爪先から顔までじろじろチェックしていく。今から出荷される野菜のチェックみたい。少しでも駄目なら出荷されないで捨てられるのかな。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加