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てっきりガッカリするのかと思いきや、何やら真剣に考え始めた子供。口に当てていた俺の手をゆっくりと離し、小さい腕を組んで、何やら独り言を始めた。
騒がれる前に、逃げさせていただくとしよう。
そう決めて、入ってきたドアへ振り向きかけた時、勢い良く服が引かれ、慌ててその手を叩いてしまった。
乾いた音が部屋へ響き渡り、驚いた子供の目が瞬時に潤み、慌てて俺はまた、子供の口を塞いだ。
「ごめん、咄嗟だった」
「……うがむがもがうぐ」
「待て待て、舐めるな手を」
「ぷはっ。じゃあ話聞いてよ」
「……お前、俺が誰なのかわかってんのかよ」
「サンタさんでしょ?」
「んなワケないだろ」
ほんの数秒前に話したのに。これだから子供は……。
期待の込められた瞳が、嬉々として俺を見つめる。一体何を期待しているのか。そんな事を思いつつも、何とかこの場を逃げ出したいから、俺はあらん限りの強面を作り、目を細めて睨みつけた。
「サンタさんは、そんな怖い顔しちゃダメだよ」
「だから、俺はサンタじゃねぇ。泥棒だ」
「もう、嘘がお上手! 信じてあげますから話を聞いてください」
バカにされたような気分だった。けれど、ここは怒って事が大きくなれば、もっと問題だ。
冷静になろう、大人になろう。
そう自分に言い聞かせ、仕方ないと、話を合わせることにした。少し付き合えば、満足するだろう。
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