オオカミと文学

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「なんだそれ!」  勇気を振り絞って告白したのにあっさり袖にされたと思った。  こんな気分はどこかで味わったことがあるかと思ったら、太宰治の『斜陽』の一場面だったと思った。 「”ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ”……」  意気消沈したましろは、顔を俯かせ小さな声で呟いた。  それは『斜陽』の主人公かず子が、片思いの相手である作家の先生に会いに行ったとき、ベロベロに酔っぱらった先生から聞いたセリフだ。  何もかも失って恋以外にすがるものが無くなった主人公が、勇気を振り絞って先生に告白しにきたことなんか気付きもせず、先生は「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」と言いながら浴びるように酒を飲み毒を吐くのだ。  その姿を見て主人公は傷つくのだが、それでも嫌いになれず、悲しい気持ちで「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」と言う先生の言葉を聞くのだった。  ましろは、その奇妙なフレーズが残酷なのにどこか笑えてしまったせいで覚えていた。  好きな人に相手にされなかったときの気持ちは、ギロチンで斬られてシュルシュルと縮んでいくようだと思った。 「そのセリフを聞くと、安酒場で安酒が飲みたくなります」     
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