オオカミとセンセー

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オオカミとセンセー

「大神君。君は自分のやったことがわかってるんですか」  「わかってんよ。だから大人しく捕まってやったんだろ」    大神ましろは夕方の進路指導室で椅子にだらしなくもたれかかりながら、横柄に頷いた。  細身だが引き締まった身体に、胸元のネクタイを緩めて着崩した制服。金髪に染めたウルフカットの長い髪、生意気そうなつり目に細面の顔。高校入学時から貫いているヤンキースタイルだった。  ましろの真正面には進路指導教師の三島晴彦が座っていた。 「ここへ呼び出されるのも何度目ですか」 「さあ? 覚えてねー」 「先生には敬語を使いなさい」 「覚えてねーです」 「校内で喧嘩するばかりならまだしも、他校の生徒といざこざを起こすものじゃありません」 「迷惑かけちった?」 「そんなことは言ってません。君の将来を心配してるんです」 「そりゃどーも」 「教えてください。どうして喧嘩ばかりするんです?」  三島に言われて、ましろは黙り込むと、頭の中で呟いた。 (そんなの、決まってるじゃん……)  ましろは、三島の顔をじっと見つめた。  皺ひとつないブラックスーツを着た長身の背丈に、櫛目をつけた横分けの前髪には一房の白い髪がメッシュのように入っていて、銀縁メガネの奥では灰色がかかった怜悧な瞳がこっちを見ている。  「三島先生っていつも怒ってるふうで怖い」と、ましろのクラスメイト達は噂しているが、わかってないなとましろは思う。 (センセーはこういう顔なんだよ。いつもセンセーに呼び出されてる俺ならわかるの。ま、おまえらにはわかる必要なんてないんだけど……)  ましろは三島が目の前にいるのも忘れてニヤリと笑ってしまった。 「……笑うとはずいぶん余裕があるんですね」  三島に言われて、ましろははっとした。  三島の乾いた氷のような真顔がさらに冷たくなったのを感じて、ましろも少しだけ怯んだが、生意気そうな鼻柱をツンと上にあげて言った。 「余裕っつーか……。俺、べつに悪いことした覚えはないし」 「自分のやったことがわかってないようですね」 「わかってるよ」 「なにをしたんです。言ってみなさい」  三島から淡々と尋問されたましろは、数時間前の出来事を思い出し始めた。
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