オオカミと文学

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 三島が素早く『斜陽』のネタに反応してくれて、ましろは顔を上げた。 「んだよ。太宰治が好きなんじゃん!」 「ええ。私はこんな名前ですが、太宰の方が好きです。ですが、自分の好みを相手に言うのは嫌いです。なぜなら、伝え方やタイミングを間違えてしまうとせっかくの名作が駄作になりかねない」  理路整然と語る三島を見て、ましろは目をパチパチさせた。 「えっと……つまり、どういうこと?」  すると今度は珍しく三島の方が目をパチパチさせて、そのあと「くすっ」と微笑んだ。  (センセーが笑った!)とましろが度肝を抜かれるよりも早く、三島が言った。 「大神くんは真面目に授業を聞いてるくせに、おバカさんですね」 「う、うるせぇな!! バカだから授業受けてるんだろ!!」 「おや。バカだと認めてしまうんですね?」 「う……!」 「ふふ。君は面白い子だな」  三島が、微かに笑った拍子にメガネがずれて奥にある瞳が見えた。  いつも乾いた氷のようだった怜悧な瞳が、ほんの少しだけ溶けたような、暖かな笑みを浮かべていた。 「恋は出会い方が大事なんですよ」 「えっ」  三島が表情をほころばせたまま唐突に放った言葉に、ましろの心臓がドキンと強く脈打った。 「こ、こ、恋って、なんの話だよ!?」     
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