オオカミと文学

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「本のことです。好きな本と出会うときとは、自分に探している何かがあるということです。それが何かはわからなくても、出会った瞬間にわかるから大丈夫。だから自分以外の人間が、あれこれ好きな作品を勧めるなんて野暮なんですよ」 「……本の話かよ」 「なんの話だと思ったんですか?」 「べ、別になんでもねぇし!」 「そうですか」  三島が最後に「ふっ」と口角をあげて微笑むと、ふいにましろの耳に唇を寄せて囁いた。 「人間も、本と同じですけどね」  そう言って、三島はましろの横をすり抜けて廊下の奥へと歩いて行ってしまった。 「~~~」  ましろが顔を赤くして廊下の床にへたり込んでしまうと、角を曲がりかけた三島が言った。 「ちなみに私も『斜陽』が一番好きです」  そう言い残して三島は姿を消してしまった。  ましろは、耳に残る三島の声と、吐息の温度にいつまでも包まれて、しばらくその場を動けなかった。
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