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ましろは世界が反転し音を立てて崩れ落ちるのを見た。
視界の端からじわりと熱い水がにじみ、三島の顔を見えなくさせる。
ましろは、生まれて初めて、死にたいと願った。
「先生、俺じゃ――」
「勘違いしないでください。私は自分の好きなものは自分から手に入れないと気が済まないと言いたいんです」
三島は一口に言い切ると、スーツの内ポケットから、小さな小箱を取り出して見せた。
「それ……」
「君と同じものを用意するなんて、やはり同じ小説が好きな者同士らしい」
三島はそう言うと、自分の用意したチョコレートをましろのほうへ滑らせ、ましろからもらったほうの包みを解いた。
中から取り出した一粒を、そっと口に含む。
「甘い……。でもほろ苦くもあり、一瞬で消えた甘さが君を思いおこさせる」
(あの女店員が言ったとおりの反応してる……。店員! おまえすげーな!)
ましろが微笑むと、目元から涙の滴が一粒こぼれた。
それを、三島が長身を乗り出して唇で受け止めた。
「甘いな」
「苦くねーの?」
「ましろの涙は甘い」
「名前で呼ぶのかよ……。恥ずいんだけど」
「君こそ『センセー』じゃなくて、『先生』と呼んでる。微妙な違いだが、私にはわかる」
「どっちで呼んだらいいの?」
「君の好きなほうでいい」
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