オオカミとチョコレート

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「……歳は35歳。すげー堅物で、おっかなくて、みんなからおっかながられてるけど、俺にはめちゃくちゃ優しくて、いつも気にかけてくれてる。クラスメイトも他の先公も俺を怖がってるけど、そのひとは俺を対等に扱ってくれるし、構ってくれる。怒ってばかりじゃなくて、天気の話とか俺の好きな犬の話とか、どうでもいい話をいつも聞いてくれる。すごく普通に接してくれるんだよな。そんときの空気がすげー好きっていうか、ホッとするっていうか――」  ましろは、自分では気付かず贈る相手の個人情報(?)を喋ってしまったことを後悔した。 「わかりました」  すると女店員は頷いて小さな小箱に入ったチョコレートをガラスケースのなかから取り出してきた。 「大人向けのビターチョコレートよ。甘すぎず、苦味のほどばしる後味なの。食べた後、もっと食べたいなって思いながら、贈った相手のことを思い浮かべずにはいられないの」  だからなんでおめーはさっきからため口なんだよ、とは思ったが、店員のセールストークにすっかりその気になった自分を抑えることができなくなっていた。 「……それ、くれ」 「ありがとうございます!」  やけに大きな声で返事した店員が、チョコレートを素早くラッピングして紙袋に包み、ましろは会計を済ませてチョコレートを受け取った。  おつりを手渡されるとき、店員が言った。 「がんば!」 「……何をだよ」  ましろは赤い顔を隠すように速足でチョコレート売り場から退散し、地上にでるための階段へ向かった。 (……これ、どうやって渡したらいいんだ)  ましろは紙袋をぶら下げながら、新たなるミッションにぶち当たった。     
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