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オオカミと文学
ましろは国語の授業に立つ三島も好きだった。
どんなときも淡々とした態度を崩さない三島だったが、黒板の前で喋るとき声のトーンが変わるところや、教科書を朗読しながら机の間を歩くとき歩調がゆっくりになる仕草を見るのが好きだった。
そんな三島が見たくて、国語の授業だけは絶対にサボらなかった。
そのせいか、ましろはこれまで小説なんて読まなかったのに、近所の古本屋で買った太宰治の『斜陽』を読んだ。
「なんとなく、センセーこれ好きそうだな。頭良さそうなタイトルだし」と直感で選んだ一冊だった。
頭痛と眠気と戦いながらがんばって読んだが、内容ははっきり言ってよくわからなかった。
だが、ところどころで胸に引っかかったセリフや場面があった。
あるとき、放課後の人けのない時間帯を狙って、廊下を歩いてきた三島に尋ねたことがある。
「センセー。なんか面白いホン知ってる?」
なるべく「小説なんか興味ないけどあんたが勧めるなら読んでやるよ?」的な態度で尋ねてみた。もしかしたら「『斜陽』が好きだ」と言うのでは? と期待も込めて。
「すいません。私はひとに小説を勧めるのは嫌いです」
三島の反応にましろはショックを受けた。
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