140人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだそれ!」
勇気を振り絞って告白したのにあっさり袖にされたと思った。
こんな気分はどこかで味わったことがあるかと思ったら、太宰治の『斜陽』の一場面だったと思った。
「”ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ”……」
意気消沈したましろは、顔を俯かせ小さな声で呟いた。
それは『斜陽』の主人公かず子が、片思いの相手である作家の先生に会いに行ったとき、ベロベロに酔っぱらった先生から聞いたセリフだ。
何もかも失って恋以外にすがるものが無くなった主人公が、勇気を振り絞って先生に告白しにきたことなんか気付きもせず、先生は「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」と言いながら浴びるように酒を飲み毒を吐くのだ。
その姿を見て主人公は傷つくのだが、それでも嫌いになれず、悲しい気持ちで「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」と言う先生の言葉を聞くのだった。
ましろは、その奇妙なフレーズが残酷なのにどこか笑えてしまったせいで覚えていた。
好きな人に相手にされなかったときの気持ちは、ギロチンで斬られてシュルシュルと縮んでいくようだと思った。
「そのセリフを聞くと、安酒場で安酒が飲みたくなります」
最初のコメントを投稿しよう!