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 わぁぁぁぁ  割れんばかりの大歓声。鼓膜がびりびりと震え、脳髄にまで響く。  国民的男性アイドルグループ、Ace(エース)のコンサートが行われている広いドームの会場は、五万人を超える熱狂的なファンで埋め尽くされていた。眩いばかりのスポットライトに煌々と照らされた五人。躯に染み付いた振りを踊り、脳に染み付いた歌詞を紡ぎ、ファンの瞳と聴覚を蕩けさせる。それはコンサート終盤の体力が限界に近付いたときであっても、全く変わらないものであった。  それくらい躯の芯にまで染み込んでいる。  Aceの中で最も輝きを放つ北原征弥(きたはらまさや)が歌い上げるメロディパートに、メンバーの中でとびきり歌が巧い北埜尚(きたのなお)がハーモニーパートを絡ませる。コンサートの最後。アンコール曲の美しいハーモニーと、メンバーの魂の籠ったダンスに、会場は一種のトランス状態に近いような興奮に包まれた。  抱かれたい男No.1と言われて久しい征弥が、その色気に溢れる容姿とぴったりな艶かしい低音を響かせた。一瞬五万人が同じ場にいるとは思えない程に会場が、しん……と水を打ったように静まり返った。  そしてその後。会場が、揺れんばかりの大歓声が響いた。  歌い終わると、ハーモニーパートを歌っていた尚が身を翻してステージ袖に姿を消した。  次に年下のメンバーである加納孝太郎(かのうこうたろう)山森伊織(やまもりいおり)が、投げキスを飛ばしながら笑って、同様にステージ袖に姿を消す。  そうして、 「みんなー!今日は来てくれてどうもありがとう!」  グループの中で最年長。リーダーを務める27歳の椎名結人(しいなゆいと)。明るい笑顔でファンに手を振る。中学までサッカー部に所属していたという結人は、小柄で中性的な容貌に反して男気に溢れており、男性のファンも多い。  ステージの上で汗を滲ませて征弥と結人がすれ違い様にハイタッチをする。  客に手を振りながら、互いの姿を見なくても二人のタイミングは完璧で、いつだって観客に溜め息を吐かせるほど格好良く手を合わせる。それは、結人と征弥が、年下のメンバーを支えて此処までグループを大きくしたのだということをよく象徴していて、ファンからは大人気のパフォーマンスだ。  グループを支えるツートップと言われる二人がハイタッチをしてステージ袖に姿を消すのが、Aceのコンサートの終わりの約束。  広いドーム会場には彼らの残した夢の余韻が甘く漂っていた。          
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