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 なーんてねっ、と笑いながら孝太郎はスニーカーを履きながら言った。結人に向けていたのはその大きな背中であったことに、ほっとした。動揺した顔を見られずに済んだ。 「じゃ、後でスタジオでねー」 と孝太郎は出ていった。 「強ち、本当かもしれないな」  高俊がぼそり、と呟く。 「はははっ、高ちゃんまで何言ってんだよ。ばっかだな。あれから何年経つと思う?今更そんなことあるかよ」  乾いた笑いが響く。 「征弥は俺のことなんて、もう眼中にないよ」  そう言うと結人は、さてと、と立ち上がる。 「俺もそろそろ支度しようかな」  鏡に向かうと引き攣ったような強張った表情を浮かべる結人が映った。  スタジオ内は、孝太郎が危惧したとおり重苦しい雰囲気に包まれていた。  スタジオの片隅に佇む圧倒的なオーラを持つ男からは、触れたら切れてしまいそうな程に冷たい空気が発されていた。  征弥は自分の人気に傲って傲慢な態度を取るようなことは決してしない。愛想よく笑顔を振り撒くタイプでもないが、誰に対しても礼儀正しい男だ。だから、機嫌が悪いからと言って周囲に八つ当りなどはしないが、これだけのオーラを持つ男が殺気と言ってもいい程の空気を纏っていれば、その場にいる誰も彼もが声を潜めるようにして動いてしまう。  Aceの五人とゲストである東城修司がパフォーマンスをする華やかなセットのところ以外は無機質なスタジオで、スタッフが動き回る靴の音が密やかに聞こえるだけ。その空気の中で…… 「この後俺もう仕事上がるんだけど、結人は?」  甘く響く低音の艶かしい東城の声が響く。 「コンサートスタッフと打ち合わせがあるんですよね」 「なんだよ、コンサートの内容なんてスタッフに任せておけよ。この前言ってた恵比寿の焼肉屋行こうぜ」     
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