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「先生、急患です」
「はい、今行くわね」
岡田はそう言ってから、二人を交互に見やって、
「はい、あとは若い同士で、仲良くね。喧嘩などしてはダメよ?」
「はあ!?」
レイも凛子も思わず同じ反応を見せ、岡田にくすくす笑いを提供してしまった。そのまま彼は白衣をはためかせ、部屋を去っていく。
しばし二人に落ちる沈黙。
その沈黙は、レイから破られた。
「なあ、お前さ……」
「なに」
全力でそっけない反応を示す凛子へ、レイが話しかける。
「頼むから俺を吸血鬼に……ん」
次にはレイがせき込んだ。そのせき込みは激しいほどで、肺が破られるのではないか、と凛子は警戒心も忘れて駆け寄った。さっきまで気に食わぬと思っていたのに。凛子がゆっくりと背中を撫でてやる。
レイのせき込みは、しばらくあってやんだ。
その時初めて凛子は、彼が骨折で入院したのではないことを悟った。
「なにか、病気なの」
「見りゃあわかるだろ」
「分からないよ」
凛子のはきとした調子に、一瞬レイは口ごもって、それから
「……ありがとう」
と囁くように言った。
少し、嘘をついた。本当は具合が悪そうだ、これは怪我で入院したのではない、とは勘づいていた。白い顔色。同学年の男子より、少し痩せた体つき。だけれど凛子はそれを打ち消すように大きな声で否定した。
レイの長いまつ毛がはばたく。綺麗な、茶色の瞳だ、と、凛子はそばによって感じた。
「難病なんだ」
あのおかまでも治せないらしい。と、レイが告げた。岡田はああ見えて相当に腕の立つ医者だった。その岡田が、手の施しようがない、とした。
?有限の命だから尊いというのは、嘘ね?
ふいに岡田の紡いだ言葉を思い出す。凛子はせき込むのをやめた背にいまだ手をあてて、
「とにかく、病室に戻りましょう。ベッドで横になった方がいいわ。そうしたら話も聞くか
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