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ら」
と言った。言った後ではっとした。話を聞く、なんて、安受けあいした、とよぎった自分が人間らしいのか。それとも情がない吸血鬼のようなのか。それは自分でも分からなかった。
二人で廊下を伝い病室に向かう。レイはしっかりした足取り、ではなかった。時々よろめいて、それを凛子が支えた。途中からナースがやってきて、彼をなんとか病室にたどり着かせた。
個室の病室にはあちこち花が飾られていた。それに美しい花の絵も、いくつかおいてあった。それらに囲まれるようにして、綺麗な女性が彼を待っていた。
身体の線は細くて、整えられた顔だちは彼に似ていた。お母さんかな、と凛子は予想した。
「あら、レイ君、お友達?」
「うん、おふくろ、悪いけど出ていって。ナースさんも」
「はいはい」
レイのお母さんか。せっかく来てくれたのに、冷たいふるまい……。凛子がそう感じるより先に、レイが何でもないことのように口走る。
「いいんだ。おふくろもナースも、俺の先のことを知っているんだろ」
「え……」
「死ぬんだよ、俺。もうじき」
あまりの突然の告白に、凛子が言葉を失ってしまう。
死ぬ。目の前で微笑むこの少年は、もうじき死ぬ。体温のなくなるものになる。今背にかざした手に伝わるぬくみ、それが消えてなくなる。溶けてなくなる。
「そういう病気なんだ」
レイが再び首を振る。まるでまとわる死の影を振り払うかのように。
「ねえ。あんたさ」
もう、凛子よ、と言う気力も奪われていた。ただただ圧されて、言い返す気もなかった。
「吸血鬼ってこと、ばらされたくなかったら、俺を救ってくれよ」
「え……」
凛子が絶句する。レイの顔はこころなしか、微笑んでいた。
「俺を吸血鬼にしてくれと言っているんだ」
◆
「……ならない方がいい」
こうまで言われて凛子はようやっと、元の自分らしい自分なりの解答を声に出せた。
「永遠の命なんて、むなしいだけよ」
だって、愛した人から死に遅れて、激痛は伴うくせに死にづらくて、いつも孤独で、一人で。ほぼ永遠に、一人で。静かに、静かに老いていく。
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