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(確かに、長生きは私には出来ない。だって私は、【死なない】もの。今日だって病院に来たのは病気治療のためではない。そんなの、私には【必要ない】もの。だって私は――)
「あらん、凛子ちゃんじゃないの」
病院の廊下を歩んでいるうちに、凛子の頭上から聞きなれた声が振ってきた。顔をもたげると、長身ロン毛の、化粧をうっすら施した医者と目が合った。
「おか、じゃない。岡田先生」
岡田がほんのりと笑みを浮かべる。
「まあた、おかまって言おうとしたでしょ。まあ、悪意は感じないからいいわ。さ、早く部屋に入ってお茶でもしましょう」
「……お茶も美味しいけど、でも今日はもっといいものがいい」
凛子がそう言うと、岡田がふふ、と口角を上げた。
「はいはい、承知していますよ。ついていらっしゃい」
それから凛子は岡田の背についていった。向かうのは医者にそれぞれあてがわれる医局室。そこへ向かう途中、廊下で女たちが口々に言い交しているのが聴こえた。
「知ってる? ここって夜な夜な、吸血鬼が出るんですって」
「知ってるわ。それを見ると長生き出来ないんでしょう。怖いわよねえ」
凛子はそれを聞くともなく聞きながら、苦笑を浮かべた。もう、そんな噂になっているのか。あの吸血鬼の噂は。
ドクターにあてがわれた部屋は、ところどころピンクのぬいぐるみが置いてある以外は、変わらぬ知識人の部屋だった。
「鍵っかけるからね」
「はいはい、几帳面なんだからあ」
岡田がいなすように言っても、凛子は安心できない。ドアノブの鍵を上向きにひねり、岡田の方を振り返った。そこでは青いクーラーボックスをあさり、こちらへ中身を差し出した岡田がいた。
「もう、これを集めるのも一苦労なのよ。ねぎらって欲しいくらいだわ」
「はいはい、ありがとう」
「感情が冷えているのね。さすが吸血鬼様は違いますこと」
ふふ、我知らず笑みを漏らす凛子。笑み、といっても淡い白雪のような笑みだが。
凛子は頂きものの口を開き、それをすぐさま喉に流した。献血パックに詰まる、人間の鮮血。それを凛子の身体はひたすらに欲している。
(私は吸血鬼だ)
そう、凛子は吸血鬼の父と、人間の母の間に生まれた。不老ではない。だがほぼ不死である。首を切られたり、バラバラにされたりしない限り、生き続ける
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