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と、まあ当たり障りのない会話をした後、担任がこんなことを口にした。
「何度も繰り返しになりますが、私たちのクラスメートである朝倉レイ君が、益子病院に入院中です。今度千羽鶴を折りましょう」
そこでえーとブーイングが出ないのが、レイ君とやらの人柄を示している。ドクターの言っていたのはこの子のことだろう。岡田の言う【つんけん】していながら、メート受けのする温かみのある性格。一体どんな子なんだろう。凛子は若干興味を示した。
ふと先日のことを思い返した。暁の頃合い、凛子は血をもらいにまだ闇が消え去らないうち、宿直の岡田に血を求めた。岡田は苦笑いしながら、献血パックを差し出してくれた。そのまま病院の屋上より飛び降りて空を滑空する。あの時、カーテンの開く音に首をひねると、珍しく病室のカーテンがあけ放されていて、そこに人間が立っているのが見てとれた。でも、その頃には凛子はもはや羽をそよがせ、光の彼方に消えていた。
まさか、顔は見られていまいが、しかし見つかったら。
そう考えると、少し身震いが起きる。
「吸血鬼に、なんて生まれてこなきゃよかったわ」
口の中で誰に話すでもない言葉は、始業のチャイムにかき消された。凛子は教科書をめくりつつも思想を深めた。
◆
お昼頃、一人でトイレ飯をするのも厭なので、凛子は屋上へ向かおうとした。屋上は似たように独りぼっちの人たちの集いの場で、誰が誰に話しかけるでもなく、その静かな環境をみなの無言で保っている。
そこへ行こうと凛子が立ち上がると、突然に、
「凛子さん」
後ろから声をかけてくる者があった。振り返る。そこでは長身の美人、美里がこちらへ手を振っていた。
「お弁当、一人?」
「うん」
ぶっきらぼうに凛子が答えると、美里は首をかしげて、よかったら、と話を切り出した。
「よかったら一緒にご飯食べない?」
教室中の机を集めて、女子はクラスに十四名しかいないのに、そのテーブルには十二人もの女子が集まって和気あいあいと昼食を食べている。所謂浮いている、混ざっていないのは、凛子と、前髪だけだ。ふと、凛子が前髪の厚いあの少女の方を見やる。すると、厚い黒髪の隙から、瞳を潤ます彼女の姿を見た。ああ、そうなのか。凛子はひしひしと痛み、を感じた。
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