0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
スパイクと陸上部ジャージ入りの大きなスポーツバッグは重たかったけど、
重さを気にしたことはなかった。
私のすべてが、あのバッグに込めてあったから。
「あーあ、また泣きそうになってる。いっそ泣いちゃいなよ、楽になるんじゃない?」
「もう、一生分流したから」
今度は頬を触って確かめなかった。
私にはもう流す涙はない。
診察室と自分の部屋で一生、いや来世の分も泣きつくした。
だから例えた泣きそうでも、涙がこぼれるなんてはずがないんだ。
「小山さんみたいに打ち込めるものがある人は、それを失ったときの代償は大きい」
スカートから伸びる脚を見た。
何度も、何度も見た手術の痕がある。
あれは事故だった。
桜が満開を少し過ぎて、雨が降っていた日のこと。
交差点で信号を待っていた私に一台の乗用車が雨でブレーキが思うように利かなくて突っ込んできた。
一瞬のことだったけど辛うじてよけた私は死ぬことはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!