2017.12.22 17:24

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 妻の遺体と最初に対面したのはオレではなく、義父だった。  愛娘の冷たくなった手を握る事態を想像しただけで、いまのオレは吐き気がする程に胸が痛むというのに。  あの数日のことは記憶が錯乱していて、いまでも上手く思い出せない。  不意に、スーツのポケットで携帯電話が鳴動する。ディスプレイに表示されているのは、見覚えのない番号。  メロディに合わせて歌い始めようとする娘を制しながら、通話ボタンを押した。 「ご無沙汰しております。黒木です」  反射的に呑み込んだ冷気が、喉に苦味をもたらす。  言葉に詰まったオレの沈黙を勘違いしたのか、かつての後輩が遠慮気味に補足する。 「あの、黒木(くろき) 恭子(きょうこ)です、投資銀行時代にお世話になった」 「あぁ、わかってる。久し振りだな」 「はい、本当に……」  沈黙の背景に、ピアノの音色。バッハのゴールドベルク変奏曲。彼女はいま何処にいるのだろう、と考え始めた自分に気付いて、狼狽する。
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