2017.12.22 17:24

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「今日お電話したのは、少し相談したい件があって」 「……相談?」 「いま、とある老舗旅館の事業再生案件に関わっています。親族経営で損益計算書は赤字続き、御曹司社長の道楽で固定資産には本業に関係のないゴルフ場や競走馬が並んでいます」 「話が見えないんだが」 「この旅館に一口二千万円、数十人の出資者を募ります。現経営陣を刷新して、固定資産をキャッシュ化。負債を圧縮しつつ、コンサル部門が策定した中期計画に従い黒字化の軌道に乗せて売り抜けるストーリーです」  思わず、破顔した。オレが退職に至った経緯を、彼女は知らない。自分でもよくわからない感情が笑いとなって漏れる。  こちらを不思議そうに見上げる娘と目が合って、片手を挙げて大丈夫だと伝える。 「先輩のクライアントでこういったケースに興味を持ちそうな方がいたら、何人かピックアップしてもらえませんか。あ、もちろん先輩ご自身でも結構ですし、場合によっては現場で指揮に当たってもらっても」 「……驚いたな、黒木」  もちろん、彼女は本気なんだろう。だが、オレの後を引き継いだ彼女にとって、こんな小さな案件が本業な訳がない。クライアントとの折衝中に零れ落ちた些事、といったところか。  いや、違う。そもそも、そんなことより……
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