2017.12.22 17:24

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 夕闇が満たす境内に足を踏み入れた。  参道を逸れた先にある広場。その真ん中で娘が立ち尽くしている。  微かに鼓動が跳ねた。長く伸びたその影の先に、成長した彼女の姿を見た気がして。あの日、娘を引き取ることに固執した自分の心理すら、もはや定かではないと言うのに。  ただ、義理の両親は、忘れ形見であるこの子をオレに託す代償に、二つの条件を提示した。  まず、投資銀行業務から身を引いて、シングルファーザーとして娘を育てられる態勢を整えること。  そして、娘が大きくなったら。育児ノイローゼに苦しんでいた妻が自ら命を絶ったこと、当時のオレの行いについて包み隠さず伝えること。 「どうした?」 「パパ、葉っぱがないよ……」  箒の跡が残る広場の真ん中、掃き集められた落葉が黒い堆積となっている。歩み寄るにつれて、焦げた匂いが鼻孔に香ばしい。 「住職さんが、お掃除して燃やしたんだね」 「なんで、そんなことするの?」 「ここに来る人が気持ち良く過ごせる様に、かな」 「えー 葉っぱー」 「週末、綺麗な落ち葉を探しに公園行こうか」 「うん、行く!」  小さな顔を喜色で輝かせる娘の手を取り、裏参道から帰路を辿る。  この小さな手は、オレが求める物をいつか与えてくれるのだろうか。万が一、それが与えられなかった時、オレはどうすれば良いのか。  見上げた冬空に伸びる、飛行機雲の群れ。  幾重にも錯綜するその行方は、夕焼けの諧調に(にじ)んで何処までも虚ろだった。 (了)
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