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「……駅前のホテルにいま滞在してる。最上階のレストランフロアにマシなフレンチがあるから、あの子を連れて行ってやってくれ。部屋も取ると良い。出来るだけ良い部屋を。明朝になるだろうが、オレも向かう」
「料理なら、あの子の好物を私が作ったから要らないわ」
「それなら、オモチャ屋にでも連れて行ってやれ。好きな物を買って……」
「そういうことじゃないのよ!」
携帯電話のスピーカーが「ドン」というくぐもった音を伝える。壁か何かを叩いたのだろう。さらに幾度かの殴打音に、啜り泣きが続く。
深く溜息を洩らすオレの肩に、誰かが触れた。視線を向けると、隣席のインド人ディーラーがオレの後方を顎で示している。そこには追い払ったはずの黒木が戻ってきていた。
「お電話中、失礼します。ロンドン本社から、テレビ会議の緊急召集が掛かりました。市場で奇妙な動きがあるそうです」
視線で了解の意を伝えながら、携帯電話に言葉を送り込む。
「とにかく、今日はそれどころじゃないんだ」
「去年のクリスマスもそう言って帰ってこなかったじゃないの……!」
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