こたつ奇譚 その弐

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 それにーー仮にだ。F沢がメンタルが弱り切り、何かしらの『妄想』にとり憑かれていたとしよう。  その『妄想』に、俺まで雰囲気にのまれて影響を受けていたなら?  あの部屋にいたのは、ごくごく短時間だ。  俺が感じた、あるいは見たと思った事々もーーとどのつまりは思い込みや錯覚の範疇かもしれない。それ以上でも以下でもないかもしれない。  だから。  精神状態はどうあれ、あいつは今も、なんとか『あの部屋』で暮らしている。  俺は自分で自分に、そう思いこませたいのだ。  連絡がないのは、元気な証拠。そんな陳腐な言葉を信じたいのだ。  間違っても、あいつを情も何もなく、見捨てた。切り捨てたーーそうは思いたくない自分が、いる。ここにいる。ここに。  卑怯な自分をーートモダチ甲斐もなにもない自分を、認めたくない自分が。  この後味の悪さに、答えを出すのは簡単だ。もう一度、あの建物の、あの部屋を訪れる。それで何であれ答えは出る。  そう頭で分かっていてもーー俺は、あそこに行くことができないでいる。  全く別の「風聞」でも、どこかから隙間風みたいに入ってこない限り。  たぶん・・・・・・・・・・・・今後も。ずっと。
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