こたつ奇譚 その弐

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「あんまり・・・いい部屋じゃあないなあ」  F沢の部屋に入ったとたん、俺の口からはそんな言葉が漏れていた。  いや、俺でなくてもたぶん、似たような感想が漏れていたと思う。  F沢とは、中学以来のつきあいで・・・世間でいう『悪友』だ。いやいや、『くされ縁』の方がぴったりかもしれない。 大学卒業後も夢を追いかけて、といえば聞こえはいいのだが・・・一言で言えば就活に失敗し続けて、定職に就いていないF沢だった。  俺の方はといえば、平凡だが暇なしの会社勤め。  瞬く間に数年が経ち、F沢とは自然に疎遠になっていた。  それがーーどういう風の吹き回しなのか。今度、新しいアパートに引っ越したという通知が来たので、訪れてみる気になったのだ。  関西の某郊外市のーーさらに端の方にあるそのあたりは、駅近がもてはやされる昨今。おせじにもイイ立地とは言えない。  冬の日が暮れた時間帯のせいもあるだろうけれど、ひどくさびれた感じで。周囲に店舗はあっても錆びたシャッターがかたく閉まり、飲食店のたぐいは一つもなく、道路にコンビニの明かりも見当たらない。  で、F沢のアパートはというと、古びた雑居ビルという印象だった。  名称だけは、なんとかハイムかコートかヴィレッジだったか、たいそうではあったけれど。 「あー。いい部屋じゃないことは承知の上さ。ご覧のとおり、老朽化してるし。立地も最悪。設備も劣悪。ただ、まあ、なんというか安かったわけさ。色々と。バカみたいに。なにしろ、こっちは経済状態がアレだから」  俺を迎えたF沢は、言わずもがなのことを言う。一見元気そうだが、以前よりも痩せている。顔色もよくない。何より、無精ひげが目立ち、ヨレヨレの室内着とあいまって、言い方は悪いが路上生活云々という単語が浮かんだほどだ。 「お前が、すかんぴんなのは、よく知っているよ。いいかげん定職に就けよ。そりゃあ、夢も大事だがな」      
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