こたつ奇譚 その弐

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 部屋のなかはーー見事なほど何も、ない。  壁はコンクリートがむき出しで寒々としているし、天井も御同様。床はさすがに安っぽいフローリング仕様で、その上に絨毯モドキを敷いているものの、生活感とはほど遠い。 液晶TVもPCのたぐいも見当たらない。ゴミらしいゴミが見当たらないかわりに、そもそもゴミになるような物が、ないのだ。  そんななかで、不釣り合いに存在を誇示しているモノがあった。  こたつ、だ。  こたつにどんなサイズ設定があるものか詳しくないが、ふつうに大きい。狭い部屋の半分ほどを占めている感がある。 「けっこうなモノがあるじゃあないか」 「うん」 「コレ、買ったのか? それとも実家から送ってもらったのか?」  F沢は、なぜか、ちょっと目をそらすようなしぐさをした。 「あー。オレが実家とは険悪だってこと、知ってるだろう? 頼んだって送ってくるもんか。こいつは、その、部屋についていたんだ」 「は?」 「前の住人の持ち物でさ。今は部屋の備品というか・・・」  そういうことも、あるとは聞いていた。今現在、法律的にどうなっているのかよく知らないが、事実として旧住人が、処理のわずらわしい家具のたぐいを置いてゆくとか(無断も含めて)。  オーナーのなかには、それを新入居者に使わせるとか(相手が納得すれば、だろうけれど)。  それにしたって、こたつというのは珍しいんじゃあないか?  基部は、まあ家具と言えなくもないだろうが。掛け布なんかはどうなんだ? 衛生的にも使い回しは、無理があるだろう。だったら、オーナーが新調したとでも? そんな話、聞いたこともないが。 「外は寒かったろ? まあ、とにかくそいつに入って暖まってくれよ。この部屋、他に暖房らしい暖房がないんだよな。エアコンは元から設置されていないし。電気ストーブのたぐいも購入していないし」 「最強寒波がやってきているというのに、のんきなヤツだ。相変わらずだな」  すすめられては、仕方がない。  それに見たところ、こたつは比較的新しく、清潔そうでもあった。ひょっとしたらこの部屋で一番、清潔感があるかもしれない・・・。  入れば、なるほど、確かに暖かかった。不安を感じた掛け布も、新品特有の匂いがする。手触りも、だ。  F沢は、俺が持ってきたツマミのたぐいを大きな皿に盛り。どこからか持ってきた缶ビールといっしょに、こたつの上に置いた。
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