こたつ奇譚 その弐

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 そうして、ひさしぶりに二人で飲み始めたんだが・・・。 「この部屋・・・窓が、ないんだな」  外は最強寒波の、身を切るような風が吹いていた。  けれども部屋のなかは、風鳴りが少しも聞こえない。隙間風すら入ってはこない。  老朽化している建物なのに気密性ーーというのだろうか。大したものらしい。ただ、狭いのに窓らしい窓が見当たらないのは、何だか息苦しい。 「あー。換気口とかさ。ちいさな窓は手洗いにあるんだけどな。消防法だったっけ。そいつが厳しくなる前に建てられたらしくてさ。色々、構造がおかしいんだ、この部屋。  ベランダも何もないから、非常設備もないし。指導だか勧告だかーーどっちが上で、強制力があったっけ。とにかく、そういうことはうるさく言われているらしいけれど」 「ふうん。物騒だな。と、いうより今時分、よく賃貸物件で通るもんだな。関係者各位とやらに、ソデの下のたぐいでもきかしているのかよ。そのオーナー様は?」  また、目をそらすようなしぐさを見せるF沢。 「あー。どうなのかな・・・」  ぷしゅっ  F沢は新しいビールの缶を開封する。ピッチがはやい。こんなに続けさまに呑むやつじゃあ、なかったはずなんだが。 「・・・あのな」 「ん?」 「あのな。このこたつ、な。どこか、おかしいところ、ないか?」  唐突にF沢は、そんなことをたずねてきた。 「は? おかしいってーー何なんだよ、それ。どこか壊れているってことか?」 「そういう意味じゃあなくて。入った時に、何か、感じなかったか?」 「ふつうに暖かいと思ったけどな。それじゃあ、ダメなのか? こたつは暖房器具だろうが」 俺のツッコミに、F沢は缶に口をつけてビールを喉に流し込む。勢いよく。 「こんな部屋だからな。オレ、こたつで寝落ちするんだ」  まわりを、あらためて見回してみる。  なるほど、ベッドもソファーも見当たらない。壁にドアはいくつかあるが、その向こうは『手洗い兼ユニットバス。もしくはシャワー』。  そうでないのは物入れのたぐいだろう。こたつで寝落ちというよりも、こたつが寝具という方が正しいに違いない。
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