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「ま、そういうこともあるだろうな。健康的とは、ぜんぜん言えないけれどな」
「あー。うん。健康的とは、ぜんぜん言えない。それは分かってる。それでな。うつらうつらしていると、足が・・・何かにあたるんだ」
「何かに、あたる?」
いったい、どういう意味だ。
「何かって・・・何だ?」
「よくーーわからない。ハッと我にかえると、何にも感触がない。掛け布をめくってみても、当たり前なんだが、何もいない」
「だろうな。犬も猫も飼っていないんだろう? 何も、潜り込む道理がないじゃないか」
「そうだ。そうなんだ。・・・まったく、そうなんだが」
しばらく、沈黙。何か、変な具合になってきた。
F沢は、また缶に口をつけてから、さらに低い声でこう言うのだ。
「三日前だったかな。やっぱり、こたつで寝ていたら。いきなり、足を引っ張られた。こう、
ぐいっ
と。もの凄いーーもの凄い力だった・・・」
「おいおい、よせよ。まったく。真冬の怪談大会か。百物語なら、夏が相場だろ?」
「・・・・・・・・・・・・だよな。あー。確かに、な。わざわざ来てくれたお前に、こんな話をするなんて、どうかしてるよな」
F沢は、ほとんど空になった缶を脇に置くと、ちらちらと値踏みをするみたいにこっちを見るのだ。
「疲れてるみたいだな。まあ、こんな生活をしてちゃ、無理ないが」
「疲れか。あー。そうだな。確かにまいってる。色々とな。部屋でぼおっとしていると時々、耳元で声
が聞こえたりしてな」
「・・・・・・声? だって?」
「ああ。ぼそぼそ、ひそひそ。何て言ってるのか分からないが。それに、何というか、変なモノも見えるんだ。変なモノをーーこの部屋のなかで」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は、『くされ縁の悪友』を、まともに見るのが耐え難くなっていた。酒のツマミがわりの嘘八百などとは、とても思えない。悪趣味なジョークなどとは、言われない。
昔から知っているから、分かるのだ。
こいつは、その内容はどうあれ、それこそマジで話をしている。
だったら、どういうことになるのだ?
劣悪な生活。将来への不安。そういったモノが、酸みたいにF沢の内面を浸蝕しているんじゃあないか。
つまり、こいつはーー?
「F沢。お前・・・・・・・・・・・・何ていったらいいのか、(おかしいぞ)」
最後の五文字を、俺が言おうとした瞬間だった。
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