こたつ奇譚 その弐

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 俺が入っているこたつの中でーー何かが動いた。 正面にいるF沢じゃ、ない。  俺から見て左側。もちろん、そちら側には誰もいない。座ってもいなければ、寝転んでもいない。 いるはずがないのだ。この部屋にいるのは、俺とF沢の二人きりなのだから。それなのに。  いきなり何かが、そちら側から俺の脚に触れてきたのだ。  それが何であれ、ぐんにゃりとしていてーーそうして、冷たかった。  ズボン越しであるにもかかわらず、明確に伝わってきた。常軌を逸した冷たさ!  表現で、「死人のような冷たさ」というのがあるが・・・俺が瞬間的であれ感じたのは、まさに、そんな異様な代物だったのだ。  しかも、それの表面が、  ぐじゅっ  と、ズレる感触が。  まるでーーまるで、『グズグズになった皮膚か何かが、ずるり、と剥けたみたい』な・・・・・・・・・・・・! 「うッ。うひゃあぁぁぁぁ」  思わず俺は、脚をこたつから引き抜いていた。あまりにも勢いが強すぎて、後方に倒れかけたほどだ。  それから。それから俺は、ほとんど間髪を入れずにこたつの中をのぞきこむ。  今のは、何だったのか?  けれども。  何もーーない。何も、そこには見当たらない。  こたつの内部はといえば。正面にいるF沢の脚。オレンジ色の発熱部。・・・それだけだ。何も置かれていないし、まして潜りこんではいない。----何も。  だがしかし。確かに、たった今、俺は。  けっして小さくはない、そうして、あまりにもおぞましい「モノ」の感触が、まだ残っている・・・。 「・・・・・・・・・・・・どうした?」  F沢の声に、俺は顔をあげた。  顔色が、蒼白に近いF沢がこちらを凝視している。  さっきは、その言動に異常性を感じた相手だ。  けれど、今は。
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