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「F沢。さっきから、妙なことを色々、言っていたよな?」
「あー。妙なこと、だろうな」
「アレ、冗談でも何でも、ないんだろうな?」
「あー。そうだ。冗談なんかじゃあない。そんなつもりは・・・・・・」
しばらく、またしても沈黙が流れる。
「お前、バカみたいに安いって言ってたな。この部屋?」
「あー。言った。うん、そうだ。そうなんだ。バカみたいに」
「安いというよりも、実質、タダーーそうだったんじゃあないのか?」
「・・・・・・」
「家賃はもちろん、敷金のたぐいも。いや、ひょっとしたら、お前、逆にいくらか貰っているんじゃあないのか、そのオーナーとやらに?」
「・・・・・・」
F沢の目が、例の不審な動きを見せる。今度は、一瞬ではなく、せわしなく動き続けるのだ。 俺の脳裏にある言葉が、確信となって浮かび上がる。
「ここ・・・この部屋。いわゆる事故物件ってヤツじゃあないのか? 前に住んでいたヤツ、どうかなったんじゃあないのか? それも自然死とか事故死じゃない。相当ヤバい件、ってヤツじゃあないのか? ええ?」
F沢の目の動きがとまる。
「他に方法、なかったからなあ・・・・・・」
無精ひげのなかの口から漏れる声が、いよいよ低い。
「ネットカフェなんかで夜明かしするのすら、限界だったんだ。実家には戻れない。いや、あっちが塩を撒くだろう。そんなときに、裏サイトに出ていたんだ。あー。ワラをもつかむ心境だった。ここに転がりこめなかったら・・・・・・冗談抜きで、あの時。オレは、どうなっていたか」
「ここで、一体、何があったんだ?」
F沢は、ゆっくりと首を振った。
「わからない。ほんとうだ。オーナーは、個人情報とやらで教えちゃくれない。義務ってヤツか。事故物件だということだけは、別の表現で開口一番、明言したけれどな。
しかし・・・ただごとじゃあないんだろうな、お前の言うとおり。
そうとも。大体、お前が言った通りの入居条件ーーいや、代償か。対価、か。提示してきたよ。
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