こたつ奇譚 その弐

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 ふつうだったら、わけありの外国人なんかを住まわせて・・・何て言ったっけ? 業界で言うサルベージってヤツか。いわくのある部屋をリセットするんだろうが。  ここは。この部屋は、そんなやり方じゃあおぼつかなかったみたいでさ。 長くて1週間。早いヤツは、その日のうちに、わけのわからないことを喚きながら部屋を飛び出したり・・・黙って姿を消しちまったり。  他に行くアテのないーー偽造パスポートとか、ビザの不正使用とか、まあ、そういった連中すら耐えられなかったーーこれはオーナーの、想像半分だけどな。  後はとにかく因果をふくめて、誰でもいいから人を住まわせて。まっとうな物件のフリをさせてーー建物自体の評判を落とさないよう、体裁をとりつくろう。そんな目論みのようでさ」  F沢は、目の動きがとまったかわりに。今度は時折、首を左右に細かく振る。おそらくは無意識に。 「色々と、注文と注意が多かったよ。まあ、そうなるな。  最低限の生活の面倒は見てやる。そのかわり、一切他言無用だ。不平を鳴らすのもアウツ。何があっても、オーナーのところに話を持っていかない。万一、何かが起こって、仮に病院等に行くことになっても。この部屋で起こったことは絶対にしゃべらないーーとかな。  まあ、こうやってお前に打ち明けている時点で、もう、約定違反なんだがな。へへへ・・・」 「F沢・・・」 「このこたつもな。オーナーがくれたんだよ。暖房器具がないと困るだろう。そう、親切ごかしに。  けれどな。だけどな。もしかしたら。本当に前の住人の持ち物だったかもしれない。逃げ出した連中なんかじゃない。この部屋の、本来の主、な。  そんな気がして、仕方がないんだ。  初めてこいつに入った時。電気もつながってないのに、生あたたかくてさ。そうだ。人肌の生あたたかさ、だった。  オレが子供の時。祖母がこんなことを言っていた。電気も通じていない。炭も何も置いていない。誰も入っていないこたつが温いならーーそれは先に、こたつの中に暖を求めてホトケさんが入っているんだとさ。つまり、アレだ。死人が・・・さ。へへへ」  F沢の首は次第に激しく振られ、まるで痙攣を起こしているみたいだ。 「F沢。お前・・・この部屋、出るべきだよ。できれば、その、今すぐにでも」  急に脱力した表情で、F沢は俺を見つめる。  
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