こたつ奇譚 その弐

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「あー。出るのは簡単だ。しかし、その後はどうなる? オレはどうなる? お前だって友達のよしみで、少しの間ならオレを泊めてくれるかもしれない。けれども、遅かれ早かれウザくなるだろう。ああ、それがフツーで、あたりまえで、トー然だ。トー然のなりゆきだ。  今現在、負け犬生活でさ。展望ってヤツのないオレには、ここがどんな場所であれ。何が起こった場所であれ。そうして、これから何が起こるにしても。最後の砦、そうなんだよう」 「F沢・・・」 俺は、何か言うべきだったかもしれない。いや、何かしてやる。いや、してやらなくては。  『くされ縁』であっても、トモダチ。そうなのだから。  ずっと、そうだったのだから  けれども・・・・・・。 「すまなかったな。こんな部屋に招いてしまってさ。でもな。お前と・・・久しぶりの宅飲みがしたかったんだよ。  何しろ、この部屋に一人でい続けるってのは。あー。矛盾したことを言ってるのは、自分でも分かってるんだ。分かっている・・・・・・それでも・・・・・・そうであっても」  F沢は色々と詫びたり、言葉を重ね続けていた。けれども、そのほとんどは俺の頭のなかに入ってこなかった。  最初は無味乾燥とした印象の部屋だった。殺風景。それ以上でも以下でもない。  だが・・・何と言ったらいいのだろう。  F沢は、構造がおかしい部屋だと形容した。  けれども、決定的におかしいのは、そんなことじゃあない。窓らしい窓がないとか、そんなことじゃあ。  居続けることに耐えられない。これ以上、ここにいれば、何か大変なことになる。そんな強迫観念みたいな焦燥を、この部屋はもたらすのだ。  そうして、頭のなかの危険信号に酷似した感覚が、俺を急き立てるのだ。  デロ。スグニ、デルンダ。ココ二、コレイジョウ、イルンジャアナイッ!  装飾皆無。備品すら、こたつ以外、ほとんどない部屋なのに。それなのに。      
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