第1章

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仕事帰りなのかスーツのままで、 深夜だというのにきっちりネクタイを締めて。 軽そうに持ってはいるが明らかに重さを感じさせるシワの寄った紺色のバックには、 ノートパソコンが入っているはずだ。 「リオ…。 」 「…マサ。 」 マスターがスッと理央の隣の席にコースターを置き、 いらっしゃいませと声を掛ける。 一見さんの対応も人それぞれ、 客商売の勘というものなんだろうか。 「ビールください。 」 はい。 かしこまりました。 と静かにマスターは気配を消してしまう。 すぐ目の前でビールサーバーから冷えたグラスに黄金色の液体を静かに流し入れているのに、 そこに居るのはもう人ではなくマスターという風景になってしまっている。
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