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カマドの火を挟み、獣女の向かいにあぐらをかいた。清酒を 一口飲んで手に印を組むと、陀羅尼を唱える。 「ノウボバギャバテイ・タレイロキャ・ハラチビシシュダヤ・ボウダヤ・バギャバテイ...」 尊勝陀羅尼という神咒だ。 佛頂尊勝陀羅尼... 仏頂、釈迦の頭頂部には 頂上肉髻という盛り上がった部分があり、光を放ち、邪を清めるという。 その部分だけが単独で神格化し、仏の一尊となった。唱えることによりその功徳があり、百鬼夜行を遠ざけるとも言われる。 獣女の身体が ビクッと揺れた。 「...アぐぅあ」 気がついた獣女は身を捩り、手足の麻紐からなんとか逃れようとしている。 陀羅尼が効いているようだが この後はどうするかな... 「...バラチニバラタヤ・アヨクシュデイ・サンマヤ・ジシュチテイ・マニマニマカマニ...」 「ぅヴぇらぐぇあッ...」 オレと獣女の間で、小さな音を立てて カマドの火が()ぜる。 「ぇぐぉヴいぁ... ぐぁラぎぉ...」 獣女は身を()りながら、うつ伏せになり 地面に顔を埋めて泣き出した。 嗚咽する声が火の向こうから、途切れながら届く。 「...サラバギャチハリシュデイ・サラバタターギャタシッシャメイ・サマジンバサエンド・サラバタターギャタ・サマジンバサ...」 ふと、獣女の身体から力が抜け 動かなくなった。
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