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「わっ、すげぇな」
穴の中の獣女を見て、朋樹は声を上げた。
獣女は、さっきの穴に収められた状態で
薄く開けた四つの眼を空に向け、口からは だらりと舌を出している。
「なんなんだ、これ?」
「知らね」
軽く答えたオレに 朋樹はため息をつき
「相変わらず いいかげんだよな、おまえ。
ま、いいわ。清めた後に祠でも建ててもらうかな」と、また獣女を見た。
「梶谷くん」と、おっさんが誰かと 一緒に、事務所の方から向かって来るのが見えた。
よく見るタイプのごく薄いベージュっぽい色の作業着上下のおっさんは、キャンプ場の所長らしい。そういや、初日にちらっと挨拶した人だ。
「おはようございます。
いやどうも、梶谷さん、雨宮さん。
解決してくださったようで...」
所長おっさんはハンカチを出して、オールバックの額に滲んだ汗を拭いた。
「それで、その遺体があると...」
オレが背後の穴を「そこです」と親指で指し示すと、所長おっさんと事務所のおっさんは恐る恐る穴に近づく。
「ィッ...ヒィイィィッ!」
穴を覗くと、事務所のおっさんが 喉から声にならない声を絞り出して後ろに転び、所長おっさんも 口をパクパクさせて腰を抜かした。
「大丈夫ですか?」
朋樹が おっさん二人の背を手で軽くさする。
失神寸前だったおっさん達が落ち着いてくると、これから朋樹が『祭詩を奏上する』と言う。
簡単にではあるが、獣女の葬式のようなものをするらしい。
朋樹は、かしこまった おっさん達と オレを背後に従え、獣女の胸の札を外し、それをオレに渡すと
祝詞を捧げ出した。
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