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「目撃された時間はバラバラなんだけどさ、その子に声を掛けても立ち止まらないんだと。
それで後を追うと、角を曲がった所でいなくなるんだってよ」
それはまた...
「すげぇハッキリ見える霊なのか?」
オレが聞くと、朋樹は「いや」と首を横に振った。じゃあ何なんだ?
またあくびしたオレに、朋樹が「運転を代わる」というので、車を歩道に寄せて停める。
もう山道は抜け、今は住宅街に入るところだった。
平らになった道の林を抜けると、すぐに白い教会がある。
この先は交通量も増えてくるので、寝不足なオレは素直に車を降りて助手席に回り、朋樹に運転をまかせることにした。
「けどさぁ、沙耶ちゃんの視間違えで
実はその子が生きてるってことも考えられるよな。
行方不明っていうけど、家出とかでさ」
オレの言葉に、朋樹はまた首を横に振り
車を出しながら短く呪を唱えた。
「えっ? ぅわっ!」
車内ミラーに 女の子が映る。
顎のラインのおかっぱの髪。
長い睫毛の大きな眼とミラー越しに視線が合った。
振り返って見ても、その子はやっぱり後部座席にいる。
白に紺のマリンボーダーの半袖シャツに、赤いミニスカート。夏の格好をして。
「ユズハちゃんて言うんだ。
本人はもう ご家族の元に帰っていたが、ご家族は誰も気づいてなかった」
「おまえ、連れて来たなら先に言えよ...」
みえない というのは
こういう仕事をする上では厄介だ。
朋樹が呪を唱えないと、オレはだいたいいつもこんな感じだ。
しかし、ついビビった声出しちまったじゃねぇかよ。本人を前に失礼だった気がする。
しかも、ずっと本人の前でこんな話ししてたのか...
オレは もう一度その子に振り返り
「ども」と、一応会釈した。
ユズハちゃんもオレに会釈を返すが、彼女は霊らしく ぼんやりと半透明で、後部座席の背もたれが薄く透けて見える。
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