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膝くらいまで繁っている草を足で分け、踏みつけながら入ると 突然、そいつが飛び付いてきた。 倒れそうになったが、片足を後ろに出して踏み止まり、オレの両肩を掴んでいるヤツの顔を正面から見ることになった。 素っ裸の女だ。 白髪に、横に並んだ四つの眼。 頬まで裂けた口の周りには まだ新しい濡れた血がついている。 額の髪の生え際からは 二本の短いコブのような角が見える。 腕は白い獣毛がびっしり生え、腰から下も同じように白い獣毛に被われていた。 気色悪... なんだ、こいつ 「ぐぅァわっ、うヴぇぐぁ」 「あ?」 白い獣女はオレの肩を揺さぶりながら ぐぁ とか、ヴヴェ とか 発音出来ないような言葉を吐き散らす。 真ん中の二つの眼はオレを見ているが、両側の眼は ぐるぐると好き勝手に周囲を見回している。 「ヴゥぐぅヴぇラ...ぐぁイヴぁ」 「なんなんだよ、おまえは?」 「うぐぇラぉ ヴぐぁグぃノ」 うるせぇ... 「ぐぁゴ! ぐゲらっ!」 オレは肩の腕を振りほどき、獣女の鼻を殴った。 話にならんし。 獣女は ドッと地面にケツを着き、四つの眼全部でオレを見る。 「ヴぅぐぁレら...」とかなんとか言って地面に手をつくと、四つ足で白い尾を揺らし 遊歩道を飛び越えて、来た方向からは逆の森の中に入った。 直進するとキャンプ場の方へ向かう森だ。 「おい待て コラァッ!!」 オレも遊歩道のロープを越えて森に入る。 木々の間の斜面の枯れ葉や苔に足を取られながら走り、登山用シューズ履いて来てよかったとちょっと思う。 しかし、何なんだ あいつは... 先を行く獣女は、キャンプ場に入り 四つ足で広場を駆けている。 後を追うオレも広場に入って また走る。 獣女は灯りの消えた暗いテントへ向かい 入り口のところで弾き飛ばされて、地面に転がった。
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