冬の牢獄

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 自室を出て、廊下から階下の様子を伺う。母は買い物にでも行っているのか、物音一つ響いてこない。  どんなに慎重に足を下ろしても軋む階段を下りる。  一階は廊下の電球が機能しておらず、玄関の欄間部からの力ない外光が辛うじて差し込んでいる。  外は風すらないのだろう。全てが停滞しているようだ。  居間への引き戸に手をかける。  日曜日のこの時間、いつもなら居間では父がテレビを観ているはずだ。  しかし、戸の向こうは静まり返っていて、人がいるのかさえ判然としない。  戸を開くと、父はすでに半身を飲み込まれていた。呼吸は止まっており、やけに静かなのはそのせいかと得心する。  私は無感動に、父を飲み込んでいる物に近づいた。  そういえば、こいつに前後はあるのかしらんと、どうでもいいことが気になった。  めくり上げて内部を露出させると、体を赤く染め、四肢をだらしなく投げ出して横たわる愛猫の姿があった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加